大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)10954号 判決 1990年2月15日
原告
日本火災海上保険株式会社
被告
松本引越センター株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告に対し、五二万三四九七円及び内金二四万一五〇〇円に対する昭和六三年三月二五日から支払いずみまで、内金二八万一九九七円に対する昭和六三年四月五日から支払いずみまで、年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告に対し、一七四万四九九〇円及び、内金八〇万五〇〇〇円に対する昭和六三年三月二四日から支払いずみまで、内金九三万九九九〇円に対する昭和六三年四月四日から支払いずみまで、年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和六三年二月二一日午後三時一五分ころ
(二) 場所 兵庫県宝塚市山本丸橋三丁目一番四号先路上(市道、以下、「本件事故現場」という。)
(三) 加害車両 普通貨物自動車(登録番号、大阪四六ゆ五三七四号、以下、「被告車」という。)
右運転者 被告早竹一紀(以下、「被告早竹」という。)
(四) 被害車両 普通乗用自動車(登録番号、神戸五九ぬ六九八六号、以下、「大山車」という。)
右運転者 訴外大山廣喜(以下、「訴外大山」という。)
被害車両 普通乗用自動車(登録番号、神戸五二さ三八四六号、以下、「小西車」という。)
右運転者 訴外小西忠秋(以下、「訴外小西」という。)
(五) 事故態様 訴外大山が大山車を運転して北から南へ向かつて進行し、本件事故現場附近にさしかかつた際、被告早竹が同所に停車させていた被告車の運転席ドアを降車しようとして開放した為、訴外大山がこれを回避しようとして、対向車線に進入したところ、折から、右対向車線を南から北へ向かつて進行してきた訴外小西運転の小西車に自車を衝突させ、右衝突の衝撃により、自車及び小西車に損傷を与えるに至つた。(以下、「本件事故」という。)
2 責任原因(商法六六二条に基づく責任)
(一) 被告早竹は、本件事故現場のように、一車線に二車両の走行が不可能な道路幅の道路上において、停車中の車両の運転席ドアを降車のため開放しようとする場合、後方を注視し、後方からの走行車両の有無を確めるなど安全を確認してから、開放すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、後方の安全を確認しないまま漫然と、被告車の運転席ドアを開放した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告松本引越センターは、本件事故当時、被告早竹を雇用し、その業務に従事させていたものであるから、使用者として民法七一五条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
(三) ところで、原告は、訴外大山との間において、大山車につき、本件事故発生の日である昭和六三年二月二一日を保険期間内とする、自家用自動車保険契約を締結していたところ、同訴外人及び訴外小西は、本件事故により、後記3記載の各損害を、それぞれ被つた。
そこで、原告は、訴外大山に対し、昭和六三年四月四日、右契約の車両保険に基づく保険金として九三万九九九〇円を、訴外小西に対し、昭和六三年三月二四日、右契約の対物賠償保険に基づく損害賠償額の支払いとして八〇万五〇〇〇円を、それぞれ支払つた。
従つて、原告は被告らに対し、商法六六二条に基づき、原告が右訴外人らに支払つた保険金合計額一七四万四九九〇円を限度として、訴外大山が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。
3 損害
(一) 大山車の損害
訴外大山は、本件事故により大山車が破損したために修理費などとして合計九三万九九九〇円の損害を被つた。
(二) 小西車の損害
訴外小西は、本件事故により小西車が破損したために修理費などとして合計八〇万五〇〇〇円の損害を被つた。
よつて、原告は、被告ら各自に対し、一七四万四九九〇円、及び内金八〇万五〇〇〇円に対する原告が保険金を支払つた日である昭和六三年三月二四日から支払いずみまで、並びに内金九三万九九九〇円に対する原告が保険金を支払つた日である昭和六三年四月四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は、すべて認める。
2 同2の(一)は否認し、同2の(二)のうち被告早竹が本件事故当時、被告松本引越センターの従業員であつたことは認めるもその余は否認し、同2の(三)は不知。
3 同3は、すべて不知。
三 抗弁(過失相殺)
本件事故現場は、被告車が停車しておつても、被告車右側面からセンターラインまでの距離は約一・六メートルあつたから、訴外大山は、被告車右側方を通過するに際し、対向車(小西車)があるか否かの確認を、対向車線に侵入せずとも容易になしうる状況にあつたし、さらに大山車は、被告早竹が被告車のドアを開放した際、そのまま直進すれば何ら被告車と接触することなく被告車右側方を通過しえたのであるから(被告車右側面と本件道路の西側端までの距離は約五・一メートルあり、ドアが開放された状態でも約四・六メートルあつたから、大山車と小西車は十分離合可能であつた)、訴外大山は、被告車後方で一時停止して小西車をやり過ごすか、もしくは、被告車右側方を通過するに際しハンドル操作を適切に行つておれば未然に事故を防止しえたにもかかわらず、一時停止を怠り、もしくは狼狽して不注意にもハンドルを大きく右に切つたため本件事故が発生したものである。
従つて、本件事故の発生については訴外大山にも大きな過失があつたものというべく、損害額の算定にあたつては、訴外大山の右過失を斟酌して相当額を減額すべきである。
四 抗弁に対する認否
否認する。
被告早竹は、道路幅三・五メートルの南行車線上に、車幅一・六メートルの被告車を約一〇分間停車させ、さらに被告車のドアを〇・五メートル開放させれば、センターラインまでの走行幅は一・四メートルしか残らず、そのため、車幅一・六九メートルの大山車のセンターライン内での正常な走行を不可能にさせた。
さらに、被告早竹は、大山車が被告車後方約一〇メートルに接近したとき、後方の安全を確認することなく、不用意に被告車ドアを開放したのであるから、訴外大山が、咄嗟にハンドルを右に切り対向車線に回避したことはやむをえない行動であつたものというべきである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)については、当事者間に争いがない。
二 (被告早竹の責任)
次に、本件事故発生につき、被告早竹に過失があるかどうかについて検討する。
原本の存在及び成立に争いのない甲第五ないし第七号証甲第八号証の一ないし四、事故現場附近の写真であることに争いのない検乙第一ないし第八号証、及び証人大山廣喜、同小西忠秋の各証言並びに被告早竹本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件事故現場は、中央をセンターラインによつて区切られている片側一車線(幅員は各約三・五メートル)の南北に通じる平たんなアスフアルト舗装道路であつて、見通しは、南行車線及び北行車線いずれも、前方後方共に良く、最高速度は時速四〇キロメートルに規制されてあり、駐車禁止場所であつた。
本件事故当時の天候は晴れで、路面は乾燥しており、現場附近の交通は普通であつた。
2 訴外大山は、大山車を運転して、時速約四〇キロメートルの速度で、本件事故現場道路の南行車線を南進中、被告車の手前約三二・二メートル附近にさしかかつた際、進行道路前方の左(東)端に、被告車と被告松本引越センターの普通貨物自動車が駐車しているのを認めるのと同時に、対向車線上約九〇・三メートル前方に、北進してくる小西車を認めたが、被告車らの後方で対向車(小西車)の通過を待機しなくても、先に被告車らの前方へ出られると思い、被告車らの後方で一時停止することなく、速度はわずかに減速した程度で、そのまま直進し被告車らの右側方を被告車との間隔を約五〇センチメートル保つた状態で通過しようとして約一九・六メートル進行し、駐車車両の右側方附近に達したとき、自車より前方約一二・六メートルの被告車運転席ドアが、急に、被告車右側面から外側へ巾約五〇センチメートル開放されれたため、右ドアとの衝突の危険を感じて、ハンドルを右りその状態で約一一・七メートル進行した地点で、小西車との衝突の危険を感じたのでブレーキをかけたが、間に合わず、約一二・〇メートル進行した地点の対向車線内で小西車前部に自車前部を衝突させ、自車はそのまま約〇・七メートル進んだ地点に停止し、小西車は約二・三メートル後方(南方)へ押し戻されて停止した。衝突地点での小西車右側面とセンターラインとの間隔は、およそ一・四メートルであつた。
3 被告早竹は、本件事故当時、被告松本引越センターの引越荷物の運送業務に従事中であつたが、被告車を本件事故現場に約一〇分間停車させたのち、被告松本引越センターへ電話するべく降車しようとして運転席の右ドアを開放したのであるが、ドアを開放するに際し、バツクミラーで右後方の安全を確認しなかつたけれども、開放後すぐに後方を見ると、自車より約一〇・七メートル後方辺りの地点に大山車が進行してきていたので、直ちにドアを閉めたが、このとき既に、大山車は被告車右側方より少し後方辺りにまで接近してきていた。
4 被告車は、車長四・六九メートル、車幅一・六九メートル、車高一・九九メートルであつた。
大山車は、車長四・六九メートル、車幅一・六九メートル、車高一・四一メートルであつた。
小西車は、車長四・一八メートル、車幅一・六三メートル、車高一・三八メートルであつた。
本件事故現場の南行車線東端には、被告車と、その後方におよそ五メートルの間隔をあけて、被告車とほぼ同じ大きさの被告松本引越センターの普通貨物自動車(以下「駐車車両」という。)の二台の車両が駐車しており、南行車線東側端から被告車右側面まで約一・九メートルあつたから、被告車右側面からセンターラインまでは約一・六メートルしか残されておらなかつたために、車幅一・六九メートルの大山車が、被告車及び右駐車車両と適当な間隔を置いて、被告及び右駐車車両の右側方を通過しようとする場合、センターライン内での走行は不可能であり、大山車の車体の相当部分がセンターラインを越えて、対向(北行)車線に侵入せざるを得ない状況であつた。
本件事故現場にスリツプ痕は残されていなかつた。
右認定事実によれば、被告早竹には、本件事故の発生につき、道路左側に駐車した車両の右側のドアを開放するに当り、後方の安全を確認して開放すべき注意義務を怠つた過失があるというべきである。
さらに、被告車右側面からセンターラインまで約一・六メートルの幅員しか残されていなかつた道路上を、大山車が被告車と約五〇センチメートルの間隔を保持しつつ、同車右側方を通過しようとした際、同車に約一二・六メートル接近した地点で、不意に、ドアが約五〇センチメートル開かれれば、訴外大山が咄嗟にハンドルを右に切つたことは無理からぬことである。もし、ドアが開放されなかつたならば、訴外大山はハンドルを右に切ることなく直進を続けたであろうし、小西車右側面とセンターラインとの間隔は約一・四メートルあつたのであるから、大山車と小西車は衝突することなく離合できたはずであつたから、結局、大山車と小西車の衝突は、被告早竹の右過失に基づくといわざるをえない。
従つて、被告早竹は、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
三 (被告松本引越センターの責任)
被告早竹が、本件事故当時、被告松本引越センターの従業員であつたことは当事者間に争いがなく、被告早竹が被告松本引越センターの業務に従事中、本件事故が発生したことは前記認定のとおりであるところ、被告早竹には、本件事故発生につき、前記認定のような過失があつたのであるから、被告松本引越センターは、使用者として民法七一五条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。
四 そこで損害について判断する。
1 損害額
(一) 大山車の損害
原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証によれば、訴外大山は、本件事故により大山車が破損し、その修理のために九三万九九九〇円の修理費などを要し、同額の損害を被つたことが認められる。
(二) 小西車の損害
原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、及び証人小西忠秋の証言によれば、訴外小西は、本件事故により、小西車が大破して廃車にせざるを得なくなつたので、時価に相当する八〇万五〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。訴外大山は、訴外小西に対して右金額の損害賠償義務を負担することになるから、結局、訴外大山は、本件事故により、右(一)(二)の合計一七四万四九九〇円の損害を被つた。
2 過失相殺
前記認定事実によると、訴外大山は、対向車線を進行してくる小西車を認めているのであるから、駐車車両後方で一時停止して対向車両の通過を待つか、もしくは駐車車両右側方を通過する場合には、ドアが開放されることを容易に予測できるのであるから、ドアが開放された場合には直ちに停止できるか、適切なハンドル操作が可能な程度にまで相当減速、徐行すべき注意義務があつたにもかかわらず、一時停止も、相当減速徐行もしなかつた過失があつたものといわねばならないので、損害賠償額の算定に当つては右過失を斟酌し、前認定の損害額から七割を減ずるのが相当である。
従つて、訴外大山が被告らに請求できる金額は、五二万三四九七円となる。
3 弁論の全趣旨により、真正に成立したものと認められる甲第四、第九(原本の存在も認められる)、第一〇及び第一一号証並びに証人小西忠秋の証言によれば、原告は訴外大山との間において、大山車につき、本件事故発生の日である昭和六三年二月二一日を保険期間内とする自家用自動車保険契約を締結していたことが認められ、訴外大山に対し車両保険条項に基づく保険金として九三万九九九〇円を昭和六三年四月四日に、訴外小西に対し対物保険条項に基づく訴外大山の損害賠償額の支払として八〇万五〇〇〇円を昭和六三年三月二四日に、それぞれ支払つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、原告は、訴外大山の被告らに対する損害賠償請求権を支払つた保険金の限度内で取得したが、訴外大山が被告らに請求できる金額は、過失相殺後の五二万三四九七円(大山車分二八万一九九七円と、小西車分二四万一五〇〇円の合計額)であるので、原告が被告らに請求できる金額は右限度内の五二万三四九七円となり、右金額の損害賠償請求権を保険者代位により取得した。
五 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らそれぞれに対し、五二万三四九七円及び内金二四万一五〇〇円に対する原告の保険金支払日の翌日である昭和六三年三月二五日から支払いずみまで、内金二八万一九九九七円に対する原告の保険金支払日の翌日である昭和六三年四月五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部静枝)